前承(2)五竜岳



 なんていい天気なんだろう。これはもう登らない訳にはいかないね。これなら水と防寒着だけで往復するのに何の不安もない。五竜山荘で昼食を含み1時間休憩して、まだ夕食まで6時間ある。コースタイムの往復2時間半の倍かけてもおつりがくる。(実際はゆっくり慎重に登って3時間半で戻ってこられた。)



 五竜岳に登りたくて五竜山荘まで来る人達は、きっとみんなこんな五竜岳を思い描いてくるんだろうな。
五竜岳と対峙


 五竜山荘前のベンチでのんびりしていたら、体格のいい、如何にもよく山を歩いてそうな単独の男性が下りて来た。彼は鳥居をくぐると回れ右して五竜岳に手を合わせ、ベンチへやって来た。 ”今日もいい天気だね。下界は暑いんだろうな。”なんて向こうからの挨拶で取り留めのない話をした。それで”これから五竜へ登るんだけど怖そうだね”と言ったら、間髪をいれず、”いや、五竜は簡単、全然危なくないよ。”という。”うっかり転んだら下まで落ちちゃいそうじゃないか。”と言ったら、”五竜を越えて八峰に下るなら簡単じゃないけど、五竜は簡単、落ちる奴なんかいない。”と断言する。山は自己責任だから何を言われても人のせいにはできないが、こう明解に断言されるとやはり少しは安心するもんだね。じゃあ行ってみよう。彼の言葉に背中を押されて登り始める。


ムシトリスミレ ずいぶん登ったね。


 下から道が見える範囲は横の傾斜が急でも人が歩ける平面がある訳だし、登りで蹴躓いても実害はあまり考えられないから、なんとなく怖いが花などを見ながらゆっくり歩いているうちに登れてしまう。


 
ウサギギク    ムシトリスミレ


 岩場は岩に書かれた丸印や矢印に従って岩の上の踏み跡をたどる。 左下の写真のような小さな尾根のような岩場を設置された鎖などを頼りに3、4回こえる。二つほど越えたところでご夫婦が休んでいて、仲間は登っているけど今日は体調が悪いので登らずに帰ります、と下って行った。立派な選択だけど折角のチャンスに残念だね。


 
五竜岳の岩場   最後の岩場


 次の岩場を越えると先のご夫婦をあきらめさせた最後の岩場が待っていた。中央下の方に人が一人立っているのが見えるだろうか。その人と比較してもかなり大きな岩場なのがわかる。道は象の頭みたいな左のくずれかけの大岩まで左に登り、ジグを切って大岩のすぐ下を右に通り、象の耳の後ろの縁に沿って頭の後ろに抜ける。妻は何とか頑張っている。今日を逃したら二度と来れっこないと思ったからと言っていた。


鹿島槍と八峰キレット    クモマスミレ 


 象の頭に抜けると鹿島槍が見えた。八峰キレットが鋭い線を見せている。


 象の頭の後ろは八峰キレットと山頂への分岐になっている。山頂はさらに右へ進んだ狭い尾根の上である。
    分岐から五竜山荘をのぞく
唐松岳から今日歩いた尾根が全部見える。
 


 五竜岳山頂   記念写真 


 分岐の上から見ると五竜岳の山頂は、写真ではピラミッドの頂きのように鋭く険しそうに見えるが、こちら側から向かう尾根はなだらかで、安全に登ることが出来る。 


 何とか登れてよかった。360度の展望を楽しんで30分ほど過ごす。欲張れば槍穂から富士山までの展望もあるはずだが、そちら側は湧き上がる雲で鹿島槍までしか見えなかった。しかしそれはそれで素晴らしい眺めだよ。
鹿島槍をバックに     



 八峰キレットは分岐からのぞき込むのも怖いので確認はしていないが、すぐ下に見えるの尾根につながるためにはかなりの急角度で下るんだろうね。  
    凄味を増す八峰キレット


オオタカorハイタカ?   


 山頂で尾根の上を飛ぶタカを見た。たまにホバリングしたり、急降下したりしているが、獲物をとらえた様子はなかった。霧の下で安心しているライチョウなどを尾根の上のきりの動きを利用して捕らえようとしているんだろうね。我々にも羽があったらね。一飛びで下れるのに。


 羽が無いので歩いて下って来た。帰りはつまずいて転ぶ可能性があるから、ことさらゆっくり一歩一歩確認しながら下って来た。  
     


 五竜山荘は靴もビニール袋に入れて部屋に持って行く方式だが、部屋に定員が入ってしまうとザックも靴も置く場所がない。全部通路に置かれる。両側に蚕棚がずらっと並んでいるのだから(それも一列に寝るんじゃないんだよ)、通路はザックと靴で一杯。布団一枚に二人は定番だが、定員が入ってしまうと身動きできないし、ザックを開く場所もない。トイレで山用のサポートタイツだけは脱いだが後は山を歩いて来たそのままで寝る。布団に少々泥が付こうが汗臭かろうが気にしない。 ”ワイルドだろう〜”。




(3)遠見尾根へ 




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