07.06.28(THU) 浅間山(前掛山) 浅間山


 黒斑山から浅間山を見ると、噴煙を上げている釜山と外輪山の前掛山は一つに見える。眼下には日本離れした風景の湯ノ平から、山腹を巻いて一筋の登山道が山頂へ伸びている。魅力的な風景で、是非歩いてみたいと思っていたが、トーミの頭から草すべりの崖を下って、浅間山を往復し、再び草すべりを登り返す自信はない。浅間山荘からにしても標高差約1200m、コースタイム7時間10分の道は、手強そうでなかなか踏切れなかった。勿論、噴火も火山ガスも怖く足を引っ張られた。
 ひところ活発だった浅間山の活動も最近は収まってきて、昨年秋から前掛山までの登山が許可された。1人で登ろうかと思っていたが、幸い僕より若くて頼りになる何時ものOさんが同行してくれるというので、二人で出掛けた。


 コース:浅間山荘8:00→不動滝8:50→火山館9:50-10:00→釜山分岐11:30→山頂(前掛山)11:50-12:15→釜山分岐12:35→火山館13:35-13:50→浅間山荘15:05 (所要時間7時間05分)

 車坂峠へ登るチェリーパークラインから、浅間山荘の案内に従って右へ分岐、非舗装だが広い林道の終点が浅間山荘。

 駐車場・登山口:浅間山荘駐車場(有料500円)、20台程度のスペースがある。林道奥の古びた木の大鳥居が登山口、登山届の提出小屋とトイレ有り。
前掛山(昨年秋・黒斑山から)
噴煙を上げているのは浅間山の中央火口丘の釜山、噴煙のすぐ右の最も高く見えるところが外輪山の最高点前掛山。現在前掛山までの登山は許可されている。


 天狗温泉浅間山荘は谷あいの割には広々と明るい所である。林道の突き当たりの立派な木の鳥居が登山口で、登山届けを出して歩き始める。丁度一緒になった佐野から来たご夫婦と前後して登る。この道は火山館のところにある浅間神社の参道でもあるから、途中一の鳥居、二の鳥居などがあり、ところどころに石碑なども建っている。歩き始めは車も走れる林道で、一の鳥居辺りでは完全な山道になる。


浅間山荘 駐車場 登山口


 一の鳥居で不動滝経由の道と、直接二の鳥居に向う道と分かれる。休憩していた単独の男性が道を教えてくれた。我々は登りは不動滝経由、下りは経由せず下ってきたが、どちらを行ってもそれほど差はない感じ。不動滝は丁度逆光だったせいも有り、水量にもよるのだろうがあまり見栄えのする滝ではない。滝の左の崖を高巻くように登ると二の鳥居へ直行する道と合流し、すぐ二の鳥居である。滝の上から見ると奥にもう一段滝があり、二段合せると結構高い滝だなと思ったら、上の滝にも大日滝という名前があるようだ。


不動滝 長坂上部


 不動滝辺りから道の勾配が増し、二の鳥居を過ぎると長坂という名前通りの、辛い長い坂を登る。勾配が緩み始める頃には頭上を蔽っていた緑が減り、やがて木の間越しに槍ヶ鞘、トーミの頭の岩峰が見えてくる。やったー来てよかった、という感じの楽しい歩き易い道がしばらく続く。長坂の途中で下ってきた単独の男性に遇った。もう山頂へ行ってきたという。いったい何時から歩いたんだろうね。


槍ヶ鞘・トーミの頭が見た 長坂を抜けると歩き易い高原の道


 やがて硫黄のにおいのする赤い沢に沿って歩く。沢の対岸は牙山の凄い岩壁を仰ぐ。鉄分の多い水が染み出して、酸化して真っ赤に見える崖を過ぎその先で沢を渡ると火山館は目の前である。火山館でほぼ行程の半分来たことになる。ベンチにザックを下ろしてゆっくり一休み。


硫黄くさい赤い谷 火山館


 火山館には自然保護団体の人が常駐している。冬もいるそうである。浅間は素晴らしい雪山で沢山人が来ますと言っていた。部屋の中のコンピュータでカモシカのDVDを上映していて、カモシカツアーに参加すれば常時5頭くらいに会えるという。前のテラスから草すべりの絶壁が見える。帰りにそこを登っていく二人の登山者が見えたが、本当によくすべらないと思うほどの急傾斜に見える。テラスの下はシェルターになっていて、外にトイレも水場もある。火山館の右手に浅間神社の古い社があり、前に二基の鳥居が立っている。日本一の山、富士山の浅間神社の祭神は、山の神オオヤマツミノカミの娘コノハナサクヤヒメだが、浅間山の浅間神社の祭神はコノハナサクヤヒメの姉のイワナガヒメだそうである。イワナガヒメはここでも割を食っている。


火山館から草すべり付近を見る コイワカガミ


 火山館からは湯の平のだらだらの登りを行く。周辺にはコイワカガミとハクサンイチゲが沢山咲いている。コイワカガミはかなり上まで咲いていて、こんなに沢山有る所は余り知らない。白いグンナイフウロも咲いていたが、すこし遅いのか見栄えのいい花は少ない。マイズルソウも地面を蔽うように、小さな白い花茎を揺らしている。


蛇骨岳・仙人岳 森林限界を超える。後ろは黒斑山


 草すべりからの合流点が火口から2km、Jバンドからの合流点に火口から1.5kmの標識がある。途中で草すべりを降りてきて火山館に寄ってから山頂に向かうという単独の男性とすれ違った。森林限界が近づくと黒斑山や蛇骨岳等、旧々火口壁がよく見えるようになる。群馬側から昇ってくるガスと湯の平を通してくる風が、Jバンドのところでせめぎ合っていた。いよいよざらざらの崩れた火山礫の登りになる。元気なOさんと登るとついついペースが上がって、無理をしてしまうので、この辺りではすでにバテバテ、何時足がつって登れなくなるのか不安がよぎる。10m登り20m登っては足を止め、息を整えて、ストックにすがってゆっくり(かなり必死に)登る。でも思ったよりは歩き易い道だった。


黒斑山 釜山・前掛山分岐


 釜山と前掛山の分岐に付くと、それまで何処から見ても1つに見えた浅間山が、釜山と前掛山にはっきり分れ、前掛山が釜山を囲む外輪山(旧火口)の縁であることが分る。はるかに遠く、旧火口の縁の一番高い所に山頂を示す一本の標柱が立っているのが見え、印象的な風景である。分岐に着く前に、男性1人に追いついた。この人は女性一人を含む3人で登っていて、二人に置いていかれたらしい。既にお仲間の二人が山頂から元気よく下ってくるのが見えた。近くに厚い鉄板のアーチ4枚をつなげて作ったシェルターが二基並んでいるが、二基とも4枚のアーチのうち1枚が巨大な火山弾の直撃を受けたのか、見事にひん曲がってつぶれていた。噴火している時の迫力が強烈に伝わってくる。


分岐付近のシェルター 前掛山と旧火口


 岩だらけの踏み跡も定かでないところを一登りして、旧火口の縁に出ると後は歩き易い尾根道を、釜山や黒斑山の風景に気をとられながら歩くうちに山頂に着いてしまう。山頂より先は通行止めになっていた。山頂はまさに縁で平らな所はほとんどない。釜山の噴火口を覗き込みたいところだが、44mほど低いから覗くことは出来ない。しかし火口があることははっきり分る。我々が山頂に居る間、雲が多く釜山の山頂を流れていたので、噴煙が雲に溶け込んでしまい、期待した迫力や美しさが見られなかったのは残念だった。


前掛山山頂 釜山(浅間山)の火口


 山頂で食事をしてのんびりしていたら、下で会った火山館へ向っていた男性が登って来た。来る時は草すべりを下ってきたが、登り返すのは大変そうなので帰りはJバンドを登って帰ろうと思うと言っていた。後から来るご夫婦は諦めたみたいですよ、とも言っていたが、我々が下り始めたとき稜線への最後の登りを二人でゆっくり登って来た。登頂間違いなしで嬉しそうで元気だった。彼らに会う少し前稜線上を走って登ってくる若者に出会った。タイツのようなカッコいいウエアに身を固めて、すれ違ったと思ったらすぐ山頂で折り返して走り降りて行った。人間って鍛えるとすごいことが出来るようになるもんだね。Oさんが旧火口壁の岩の間から立ち昇る僅かな噴煙(水蒸気?)を見つけた。こわ!!


火山館のすぐ下から牙(ギッパ)山 カモシカもいたよ


 後は火山館で一休みして坦々と下った。火山館には山頂付近であった3人連れのグループがいて、テラスからカモシカが見えるというので双眼鏡を覗かせてもらった。岩壁にいると見事な保護色になっていて見つけるのに苦労したが確かにいた。その場所は火山館から沢を渡って下る正面の岩の崖の上で、下って行ったらまだのんびりしていて、3倍ズーム一杯の部分伸ばしで何とか写真に撮れた。カメラ目線で我々を見下ろして悠々としていた。 

 浅間山は'98年の6月に峠の茶屋側から登ったことがある。山頂は吹き飛ばされそうな強風の中で、コップのような巨大な火口と北アルプスまで見える展望に、思わず絶叫した声が、風に飛ばされて自分の耳にもろくに届かなかったのを覚えている。峰の茶屋から登ると外輪山は痕跡が残る程度である。小浅間との鞍部から延々と続く広い急斜面の直登が上り下りともかなりきつかったが、それはそれで別の雰囲気が味わえる。

 浅間温泉は火山館の赤い沢と同じ金気の強い赤錆色のお湯である。ゆっくり汗と疲れを流し、着替えてさっぱりして家路に着いた。




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