2010.08.06(金) 常念岳(二日目) 北アルプス


 朝食は一回目が5時、早い者順ということになっているらしい。日の出は4時50分だそうで、一の沢に下る人は4時前に出発して山頂でご来光を拝み、また戻って朝食をとると言う人が多かった。蝶が岳へ縦走して三股や上高地へ下る人は、ご来光はあきらめて5時の朝食を選択した。我々は早起きは苦手だが、しかし時間の余裕もほしいので、一の沢下りだが5時の朝食を選んだ。


 5時の朝食は早い者順ということなので混乱するかなと心配したが、4時半ごろ様子を見に行くと整理券が配られていて、食事も5時を待たずすぐ始まり、全く混乱は無かった。
 5時前に水とカッパの上着だけ担いで常念岳山頂を目指す。風も無く寒さも無く、長袖のアンダーシャツに半袖のTシャツで丁度良い。
朝5時の常念乗越


 今朝、4時前に目が覚めると、すでに起きていた妻が肩を引っ張る。そしてそっと部屋の窓をあけると、空は吃驚するような大きな星が一杯輝いて、その星明りで明るい空に槍から北穂までの山影がくっきり見えた。そして槍の肩と北穂の山頂近くに小屋の明かりが星より明るく輝いている。小屋の明かりっていいもんだなあと思う。これで山頂からの槍、穂高の展望は約束されたようなものだ。


朝焼けの槍が岳


 常念乗越へ出ると、槍ヶ岳が朝焼けに染まっている。昨日の午後遅く着いてまるっきり展望の得られなかった登山者へのサービスなのか、山小屋の人が明日の午前中はピーカンだそうですよ、なんて言っているのを聞いたが、それはまさに正しかったように思えた。 


   
    少し陽が高くなると槍に滝雲みたいな雲が付き始めた


 少し登って陽が高くなると、なんと槍ヶ岳に真綿のような雲が付き始めた。まあピーカンより少し雲があったほうが絵になるよ、なんて言いながら少し気になる。常念乗越からの登りでは、常念自体の尾根にさえぎられて穂高は北穂までしか見えない。山頂で売りものの穂高の展望は得られるのだろうか。


 さらに登ると、おやおや常念自体にも霧がかかり始めた。こりゃまずいよ。霧はさらに濃くなるのだろうか。このあたりまでくるともう朝食前に山頂へご来光を見に行った人たちが下りてくる。選択を間違えたかな?
 常念乗越から見る常念岳はなだらかだが、少し登ってみるとかなり急勾配である。イワイワは見た目ほど登りにくくは無い。
おやおや常念にも霧がかかり始めた。


 同じ部屋で顔見知りになった九州から車で来た人が下って来て、「1時間で登れるなんて聞いたけど無理、山頂のご来光は間に合わなかったよ。あの先もずっとあるんだよ、ゆっくり行った方がいいよ。」なんてアドバイスをくれる。


   
    ありゃりゃ、霞んじゃった。


 そう、もともとずっとゆっくりだから大丈夫。一歩一歩足元を確認しながら登る。それにしても霧にかすんでゆく槍ヶ岳や常念の山頂を見ながら気はせくが、こればっかりはしょうがない。


霧が流れる。 薄い霧なのだが・・・


 最後の大岩の累積を登りきると祠と方位盤の置かれた山頂(岩の上)に出る。槍、穂高の見える西側が比較的なだらかな岩場で、かなりの人たちが休憩できる広さがある。前常念岳は霧の中だったが山頂の東側は一気に谷底まで切れ落ちている。


山頂直下の大岩の累積 ついに山頂、槍ヶ岳をバックに。




山頂の展望   
    前穂、乗鞍、御嶽山。のぞき込むと梓川の流れが見える。


 山頂の展望は微妙な高さに雲海が広がってしまい今一と言えば今一。休憩を兼ねて一時間近く粘って同じような写真を何枚も撮ったが、一度もすっきり全体は見えなかった。上高地から梓川をさかのぼる道は、広々した沢の歩きやすい道だが、こうして山上から見るとかなり狭く深い谷底にある。


 穂高岳もなかなか全部のピークを同時には見せてはくれなかった。屏風岩は広くて大きい。 
前穂、奥穂、涸沢岳、北穂(雲が付いている)。



   槍ヶ岳は時間とともに雲が厚さを増し隠されてしまうことが多かった。 
槍ヶ岳、大喰岳、中岳    




   蝶ヶ岳を越えて三股や上高地へ向かう人たちも、大きなザックを背負って次々山頂に到着し、にぎやかになった。昨日山小屋で同室だったり、食事の時同じテーブルだったりで顔見知りになった人たちもいる。そんな人たちは一言二言笑顔であいさつして、それぞれの道に去って行く。
穂高岳を撮る人    


 私は無口な方だが、小屋泊まりの山では山の雰囲気がそうさせるのか、フレンドリーに話しかけて下さる人がいたりして、僅かな時間だが楽しく過ごさせてもらうことが多い。一の沢の登り始めの頃から前後して登り、同じ部屋で、朝食のテーブルも同じだった気さくなひげおやじさんご夫婦が、後で「夕刊フジに竜馬を愛した女たちを連載している岳信也です。夕刊フジを読んでください。」と自己紹介されてびっくり。我々が群馬と聞いて高崎の小栗上野介の菩提寺、東善寺に通ったとか、何より奥様が秋田の本荘の人だそうで、妻と郷里の話で盛り上がっていた。


 
 タカネスミレ    蝶ヶ岳への尾根、先は急降下のようだ。


 朝食のテーブルで前に座った3人組の一人が、「水は飲み溜めが利くからたくさん飲んどいた方がいいよ」と妻に言う。「僕はプロガイドだから間違いないよ」と、首から下げていた大きなIDカードを見せていくれた。もう一人は山岳会の仲間で、もう一人はただの山好きということらしい。ガイドさんの話だと今回は西穂から入って奥穂、槍、大天井、常念とぐるっと回ってきて、今日は蝶ヶ岳を越えて上高地に下ると言う。「西穂で登り始めた時はもっと沢山いたんだけど、だんだん減ってね」って、で3人が常念まで頑張ったということらしい。凄い山歩きをする人たちがいるもんだ。でもなんか自然であったかい。強くなければ優しくなれないて言葉があるけど、そんな感じ。こんなガイドさんと山を歩けたら楽しいだろうなあ。でも聞かれて槍を3泊4日で歩いたと答えるのはちょっと気がひけたね。


 
山頂東側の断崖   断崖の上の花
イワギキョウ、オンタデ


 さて我々も山頂を後にしてきた道を下る。後は下るだけという心の余裕も出来、登りとはまた風景もガラリと変わって見える。真っ白に湧き上がる雲と緑の山はまさに夏山のものだ。「おこじょ!おこじょ!」という声の方を見ると、小さな動物が岩の上を跳ね上がるように登って行くのが見えた。


 
山頂から下る。
雲湧く横通岳
  尾根の変曲点の手前付近
横通岳、東天井岳、大天井岳


 変曲点を過ぎると下に常念乗越と常念小屋が見える。下から見上げるのとは違って高さと勾配を感じるところが面白い。しかしこの広々した穏やかな山体が与える安心感が、常念乗越から山頂に向かうこのコースの特徴だろう。一の沢からは標高差も距離も結構あるのに、北アルプスの入門コースと言われるのはそのためだと思う。


 
常念乗越 、常念小屋   トウヤクリンドウ


 小屋で預けたザックを受け取り、トイレを借り、水を補給し、ゆっくりコーヒーをいただいて休憩を取り、一の沢へ下る。膝の弱い妻には山用のタイツの上から重ねてサポーターで両方の膝とも筋肉を固定するようにした。 


 
 ミヤマダイコンソウ   槍ヶ岳にお別れの挨拶


 最後の水場から胸突き八丁あたりまで下ると、もう登山者がどんどん登って来る。特に団体さんが続々登って来る。今日は小屋は混むだろうなあ。一目で我々より年上と思われる高老年登山者が結構いるのに驚いた。笠原沢あたりでもまだやってくる。我々は今朝は早くから歩いているので、もうかなり遅い時間のような気がして心配したが、そんなに遅いわけでもない。3時くらいには小屋に着く計算だ。しかし遠い空ではかすかに雷の音がしていた。


     
ミヤマモンキチョウ    トリカブトあるお花畑


 胸突き八丁のお花畑では、すれ違う登山者がいなければ往きに撮った同じ花の写真をまた反対側から撮る。


 
シモツケソウ   シナノキンバイ




 
なに?    オオヒョウタンボクの実


 昨夜同室だった京都から来たご夫妻や、茨城から来たご夫妻と前後して下る。京都から来たご夫妻は1時半にタクシーを予約したとかで、やはり膝の調子の悪い奥さんをかばいながら時間を気にしていた。茨城のご夫婦も奥さんの調子が今一のようだったが、三組ともほぼ同時に登山口へ無事下ることが出来た。小屋から一の沢や三股の登山口にタクシーの予約を入れている人が結構いた。小屋では携帯が通じる。


   高老年の団体ツアーの人達が多いと書いたが、今回は流石に北アルプスで、おしゃれな若い登山者も沢山いた。ほりでーゆ〜四季の里の温泉でも男性一人、女性三人の若々しいグループに出会った。今日は三股泊まりで、明日蝶ヶ岳、常念岳経由でまた三股に下るとのことだった。気を付けてねと言うと行ってきますと、大きなザックを担いで出て行った。素直でカッコいい若者たちだ。日本もまだまだ捨てたもんじゃない。
元気に下る若い人    


 


 ほりでーゆ〜四季の里によって、ゆっくり温泉に入り、体を休めて帰宅。食事も済ませてしまいたいところだったが、レストランは5時からでちょっと時間が合わなかった。   
    常念岳
国営アルプスあずみの公園付近から



 今回初めて、登山口の駐車場で車中泊を試してみた。 ほりでーゆ〜四季の里で温泉と食事を済ませてしまい、後は寝るだけ。それなりによく眠れて時間的な余裕が最大のメリットだが、手際よく寝るには少しノウハウが必要そう。福岡から来たご夫婦と、茨城のご夫婦の二組は同じように車中泊とのことだった。





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