05.01.20(THU) 黒檜山 赤城山


 1月3日は三夜沢の赤城神社に初詣、山中の神社にしてはかなり混み合っていて吃驚した。それでも山に登らないことには落ち着かない。ずっと気になっていた。20日は快晴、前橋から赤城山がすっきり見えている。今日こそ行こうと冬山道具をかき集めて一人で出かけたが、例によって出だしが遅く、登り始めたのは11時を回っており、黒檜山大神のご機嫌を損じてしまった。


コース:黒檜山登山口11:10→山頂13:00→黒檜山大神のピーク13:10−13:35→大ダルミ14:20→駒ケ岳山頂15:00→下降点15:30→駒ケ岳登山口16:15→黒檜山登山口16:45 (所要時間5時間35分)

赤城道路は赤城ふれあいの森への分岐のあるS字カーブの所から路面に残雪が凍り付いている。黒檜山登山口まで完全に除雪されている(路面は凍っている)。

登る直前の黒檜山

 今年は赤城山が麓まで真っ白になることが多いようだ。しかしその雪も次の日には融けてしまって何時もの平凡な赤城山に戻っている。14日に栗生山から見た赤城山の東面も特別残雪が多いようには見えなかった。それでも赤城道路は蓑輪の駐車場を過ぎると除雪車が3台も出て除雪作業中で、山側の路側から削り取った雪を谷側に飛ばしていたりして、すごい勢いで噴き出す汚れた雪のアーチの下をくぐって大沼に向う。
 大沼付近の積雪も特に多いようには見えず、車を走らせながらのぞいた駒ケ岳登山口には人が歩いた痕跡は無かった。大沼の小鳥島にある赤城神社の赤い欄干の橋の上からみた黒檜山は、霧氷もほとんど無く、出かけるのが遅かったのを割り引いても今日は暖かいようだ。霧氷の中を歩けないのは少し残念。


 黒檜山登山口の駐車場には既に3台の車があった。小柄な男性が登山準備中で、この人は小型のスノーシューを付けて五輪峠の方にスノーハイクに出かけたようだ。私が準備中にもう一台車が来て、運転していた男性に「これから登るんですか」と声をかけられた。私は遅いと言う自責の念に駆られていたので、「はい、少し遅いですね」と答えると、「いや我々もこれから登ります」とのこと。奥さんとご一緒のようだった。
 一旦はアイゼンとワカンを付けて登山口に入ったが、登山道の雪は踏み固められていて、ワカンはまったく必要ないと分かったのですぐ外した。黒檜山のこの登山道は出だしが急で(先はもっと厳しいが)、まったく調子の出ていない身体にはこたえる。すぐ息が切れてしまう。
枝の向こうに鈴ヶ岳、雲が増えた。


 猫岩の上部の急な登りで、下ってきた同年輩の男性に出遭った。”きついですね”と声をかけると、”短いけど結構きついんだよね”と返事が返ってきた。
 更にしばらく登ると、”うわっ!”と言う声と共に逆さまの男性が一人降って来た(ちょっと大げさ)。私が登ってきたのを見て、踏み跡を外して道をショートカットして譲ってくれようとしたら、思ったより雪が深くて足が前に出ず、つんのめるように雪に突っ込んでしまったらしい。雪が深く頭が下で簡単には立ち上がれないから雪まみれになってしまった。「転んじゃったよう」と笑いながら下っていったが、私よりやや若そうな体格のいい男性だった。「お気を付けて」。
 そういえば夏道の下りで後を歩いていた妻が転び、どうした弾みか、頭を下にして仰向けに潅木の間に挟まってしまい、ひっくり返された亀のように手足をばたばたさせて、起き上がれないことがあった。勿論すぐ助け起こしたが、そのとき私が笑ったと言って未だにもめる。
猫岩の少し上からの駒ケ岳


 だんだん雲の量が増え陽が蔭ることが増え始めた。たまに一陣の風が吹き地吹雪が顔に吹き付ける。ちょっと太平洋高気圧が冬将軍に押され気味のようだ。急登が続く。木の枝には雪とえびの尻尾は付いているが、霧氷はまったく無い。厳しい登りに何時もの通り、まだかまだかと上を見ては息をつく。
 やっとの思いで稜線へ抜ける。山頂まで行ってみたが、誰もおらず暗い空だけが広がっていた。雪に埋もれかけた山頂の標識の写真を撮り、立ったまま暖かい紅茶を飲んでひと休み。道を戻って黒檜山大神の赤鳥居の前へ行く。やはり誰もおらず、祠に手を合わせてゆっくり初詣が出来た。
黒檜山山頂


 断熱マットを広げて座り、ゆっくり紅茶でおにぎりを食べる。目の前の地蔵岳や大沼、小沼の視界が、這うように昇ってきた暗いガスに、舞台の幕が引かれるようにすうーっと閉ざされてしまう。
 さて体が冷えないうちに、来た道を下るか駒ケ岳へ回るか決めなければならない。今日はワカン無しで登れたのだから大分楽ができたはずだ。何時もの調子なら駒ケ岳を回って帰れる。ただ天候が崩れそうなのが気になる。しかし踏み跡も一つあるようなので行ってみることにした。
黒檜山大神の鳥居


 ワカンを付け大ダルミに向って数m歩いたら踏み跡は消えていた。先行者は賢明にも引き返したようだ。もう道案内は居ない。視界がなくなっても無事進めるのだろうか。そのうえ雪が悪い。足を踏み出すとずぶずぶ沈み込んでしまりが無く、後ろ足を抜こうとすると粘るように重い。私は何度も雪の山をワカンで下るのは楽しいと書いてきたが、同じ山、同じ時期でもまったく違う雪があるのだ。これはかなりヤバイと覚悟したが、引返そうとは思わなかった。


 黒檜山から大ダルミへの急な斜面をぬかるみ歩きで下る。雪の下りで苦労したのは初めてだ。大ダルミの手前に小さなこぶがある。どうしても進めない所もあったが少し巻いて何とか越える事が出来た。何とか登れそうだ。
 大ダルミは視界がほとんど無いモノクロームの世界だった。いよいよ最後の難関、駒ケ岳への登りに掛かる。緩斜面なので沈み込みが少し減り、ほんとにゆっくり、休みながら自分のペースで一歩一歩登る。この一歩が出ている限り間違いなく駒ヶ岳に登れる。少し気持ちにゆとりが出た。
大ダルミ

 1時間25分も掛けて駒ケ岳山頂に無事到着。昨年は同じ雪の中を40分できたのだから倍かかったことになる。ワカンにとって雪質の違いは馬鹿にならない。しかし後は下るだけ、一安心である。視界はなくみぞれの様な雪が横殴りで、上着のジッパーを顎まで上げる。休むことも出来ず稜線の雪庇の上を下る。


 すぐに稜線に木の柵があり、そのすぐ下に「崖・危険」とか書かれた板が立っている。夏道はこの看板の下を巻いてくる。雪庇を踏み抜くのが何となく怖かったこともあって、何気なくその看板の下を稜線から5〜6m下ってしまった。林の中は真っ暗で夏道の通っている位置など全然見当が付かない。しばらく眼を凝らしたが頼りのビニールの赤いテープもまったく見えない。このままでは道を失うと思って、稜線に戻ろうとしたがこれが登れない。仕方がないので手掛かりのありそうなところを探して、小枝だろうと熊笹だろうと、使えるものは皆使って尾根に這い出した。雪庇の上に出るとガスの中に見覚えのある風景が広がっていてほっとした。
駒ケ岳の雪庇


 少し下れば山容は穏やかになり、稜線の雪に埋め尽くされた広い笹原を下る。大同への下降点の道標も何とか頭だけ見えていてすぐに分かった。
 昨年は雪が良く締まっていて、この急な崖を下るのにワカンは必要なく、アイゼンだけで下った。今年は雪質ばかりでなく雪の付き方も違い、出だしの鉄の階段もすっかり雪に埋まっていて、ワカンが無ければ歩けなかった。
大同への下降点


 出だしの鉄の階段から、次の急で長い鉄の階段まで、ほんの3mほどだが何の手掛かりも無しに、夏でも嫌な高い崖をトラバースしなければならない。崖を埋めた雪の斜面に乗ったら、そのまま雪と一緒に崖の下まで流されてしまいそうな気がする。恐る恐る乗ったらずぶずぶと沈みこんだが意外としっかりしていて、無事鉄階段にたどり着く事が出来た。この鉄の階段も勾配が急で、締まりの無い雪が詰まっていてとても歩きにくい。尻セードは苦手だが、少し出ている階段の手すりを握ってプレーキを掛けながら滑り降りた。後は夏道の見当を付けながらショートカットを繰り返し下ってきた。斜面が急なら立って歩く人間にとっては雪は深くなる。しかも相変らず泥沼を歩くような雪だからペースは上がらない。うんざりするほど下界は遠いと思った。赤城道路に飛び出すまでただただ忍耐であった。昨年、駒ケ岳山頂から登山口まで40分で下ったが、ことしは1時間15分でここも約倍の所要時間であった。


夕焼けの黒檜山 夕焼けの駒ケ岳


 ワカンを外して赤城道路を歩き始めると、皮肉なことに黒檜山も駒ケ岳も嘘のように晴れ上がり、夕日に美しく染まっていた。黒檜山登山口の駐車場まで、休みを入れなければ歩き通せないほど疲れ切っていて、黒檜山大神がざまあ見ろと笑っているんじゃないかと思った。



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